フリーライターの森岡葉のブログです。 大好きな音楽のこと、日々の出会い、楽しかったこと、美味しかったもののことなどを書いていきたいと思います。



   
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jasminium

Author:jasminium
1956年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。1975年~76年北京語言学院・北京大学歴史系に留学。音楽ジャーナリスト。2009年第53回ブゾーニ国際ピアノコンクールにプレス審査員として招かれたほか、ハエン国際ピアノコンクール、シドニー国際ピアノコンクール、中国国際ピアノコンクールなどにジャーナリストとして招かれている。著書:『望郷のマズルカ~激動の中国現代史を生きたピアニスト フー・ツォン』(ショパン)、『知っているようで知らないエレクトーンおもしろ雑学事典』(共著)(ヤマハミュージックメディア)、訳書:『ピアニストが語る! 現代の世界的ピアニストたちとの対話』(焦元溥著 アルファベータブックス)、『音符ではなく、音楽を! 現代の世界的ピアニストたちとの対話 第2巻』(焦元溥著 アルファベータブックス)

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フー・ツォン 4月29日上海公演~オール・ショパン・プログラム~

   
 今回の上海行きは、2週間前に1週間も上海に滞在して帰ってきたばかり。4月はけっこう忙しく、あれこれ仕事を必死に片付け、またまた上海。これまた厳しい日程の取材と原稿〆切。正直、これは無理かなと思いながら、とにかく上海に飛んで行ったのは、フー・ツォンのショパン・イヤーのプログラムを聴きたい一心でした。そして、本当に行ってよかった こんな演奏、一生のうちにそう何度も聴けるものではありません。これから書く感想は、音楽ライターの私ではなく、フー・ツォンのファンのひとりが書いているものだと思ってください。本当に素晴らしい演奏に出会ったとき、言葉や文章は無力です。少なくとも、私のような未熟な物書きには…(それでは、いつも書いているものは何? というツッコミが入りそうですが)。フー・ツォンのファンの方たちも読んでくださっているので、とにかく、コンサートのレポートを、思ったままに書くことにしますね

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プログラム

〈前半〉

葬送行進曲 ハ短調 (遺作)op.72-2

コントルダンス 変ト長調 (遺作)
カンタービレ 変ロ長調 (遺作)
変奏曲《パガニーニの思い出》イ長調 (遺作)
ノクターン 嬰ハ短調 (遺作)

4つのマズルカ op.17

エチュード op.10より6曲
op.10-3,8,9,10,11,12

〈後半〉

舟歌 ヘ長調 op.60

2つのノクターン op.62

3つのマズルカ op.59

幻想ポロネーズ 変イ長調

〈アンコール〉

子守歌 ニ長調
マズルカ op.68-4(遺作)

 素敵なプログラムでしょう? ショパン・イヤーのために、こんなプログラムを用意していたなんて、あのオジイサンも、なかなかやるな、なんて思ってしまいました

 中国の夜のコンサートの開始時刻は19時半。ほとんど寝ないで原稿を送ってから、お昼寝をしてコンサートに備えたので、気力、体力はバッチリ。地下鉄に乗って会場の東方芸術中心(オリエンタル・センター)の最寄り駅の「上海科技館」駅に着いたのは、18時半過ぎ。腹ごしらえをして…
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 地下鉄の駅の中にあるファースト・フードのお店で、魯肉飯(ルーロウファン)。ご飯の上に、豚肉のそぼろ、炒めた青梗菜、卵の醤油煮がのっている丼ものです。スープがついて15元(210円)。気力、体力、お腹もいっぱい、コンサートを聴くコンディションをしっかり整えて、会場へ。
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 会場となった東方芸術中心(オリエンタル・センター)には、大小あわせて4つのホールがあり、今回のコンサートは「音楽庁」という2000人以上収容のホールで開催されました。ピアノのリサイタルを聴くには、ちょっと大きめのホール。フー・ツォンは、上海ではいつももう少し小さめの上海音楽庁(上海コンサート・ホール)でコンサートをやるのですが、今回からマネージメントが変わった関係で、大きなホールになったようです。

 フー・ツォンの指の状態も心配だし、大きなホールというのもどうなんだろうか、と思いながら、会場に到着。チケットを用意してくれていた音楽評論家の李厳歓と入り口で落ち合って、会場に入りました。上海万博開催前夜で、荷物検査などセキュリティ・チェックが厳しいので早めに来て、と言われていて、19時過ぎに入りました。

 席は、1階の右側の4列目。ちょっと近過ぎか? と思いましたが、いつものようにピアノがステージの奥に置かれていたので、このへんがちょうどいい? という感じ。いわゆる関係者席で、古い友人、報道関係者、評論家たちが近くに座っていて、久しぶりに会った方たちとおしゃべりしながら開演を待ちました。

 ステージに現れたフー・ツォンは、また少し痩せたかな? という感じ。いつものように厳しい表情でさっとお辞儀をしてピアノに向かいました。手には、トレードマークの指先だけ穴の開いた黒い手袋はしていませんでした。手の調子はいいのかなぁ? 以前に本人に尋ねたら、「そのときの気分だ」と言っていたので、手袋をしていないから手の調子がいいというわけでもないようです。

 最初の曲は、遺作の『葬送行進曲ハ短調』。ショパンの作品の「(遺作)」というのは、生前に未発表だった作品で、死後に友人のユリアン・フォンタナやショパン研究者たちの手で出版されたものです。ごく若い頃の習作かと思われるものが多いのですが、宝石のような輝きを放つ隠れた名曲が数多くあります。
 この『葬送行進曲』も、そのひとつ。1827年に作曲されたということですから、ショパンが17歳のときの作品です。このモティーフは、ソナタ第2番の第3楽章の『葬送行進曲』につながっていると思うのですが、少年らしい堂々とした清潔感にあふれる曲想が魅力的な作品です。
 76歳のフー・ツォンは、どんな想いでショパン・イヤーのプログラムの最初にこの曲を持ってきたのでしょう。哀愁に満ちたメロディを、ゆったりと歌って聴かせてくれました。美しい曲です。楽譜はオックスフォード版かなと思いましたが(フォンタナ版ではないような気がしました)、、エキエル版かもしれません。

 続いて、遺作を続けて4曲演奏。『コントルダンス変ト長調』『カンタービレ 変ロ長調』『変奏曲《パガニーニの思い出》イ長調』『ノクターン嬰ハ短調』、あぁ、この人は本当にロマンティストなんだなぁとつくづく思いました。もう、本当に筋金入りのロマンティスト。若い頃のショパンのみずみずしい叙情が、彼の指先から生き生きと優雅に紡ぎ出され、うっとりと聴き入ってしまいました。

 フー・ツォンの演奏の魅力は、簡単に言ってしまうと、独特の「タメ」というか「間」にあると私は思っています。音符と音符の間の空気の中に彼の音楽があるのです。彼の父フー・レイ(傅雷)は、「無音の音を聴く者は聡なり」という『淮南子』の一句から彼の名前を付けたようですが、彼の音楽は、まさに無音の空間にあります。音と音の間に、あこがれ、夢、哀しみ、苦悩、切なさ…、さまざまな情感、ニュアンスをこめることができるピアニストです。
 でも、年をとると性格や特徴って、よい意味でも悪い意味でも、デフォルメされるというか、強調されるものなのでしょうか(気をつけなければいけませんね)、ちょっとやりすぎかな~? と思うところもありました。それでも、やっぱり豊かなロマンティシズム、温かな歌唱性、繊細な情感あふれる演奏は本物。フー・ツォンのショパンはすばらしい。彼の演奏を初めて聴いたときの驚き、衝撃を思い出しながら、久しぶりの彼のショパンの音楽に浸りました。

 次のマズルカop.17は、もう彼の独壇場。特有のタメ、空気感がマズルカのリズムに合っているのでしょうか。ごく自然に奏でられた、馨しいマズルカの世界を楽しみました。

 そして、前半の最後はエチュード!!!

 本当に弾くのかな~? と半信半疑だったのですが、弾きました!! コンクールなどで、若いピアニストたちの演奏を聴き慣れている耳には、まったく別の曲のように聴こえましたが、op.10-3『別れの曲』で始まり、op.10-8から12の『革命』まで、壮大なドラマを感じさせる演奏。これがエチュードかぁ、と思いました。ちょうど、12歳の中国の天才少年ニュウニュウくんが5月にリリースするエチュード全曲を聴いたばかりだったので、何という違い!! と思ってしまいました。あ、ニュウニュウくん親子も聴きに来ていたんですよ。入り口で会いました ニュウニュウくんも、フー・ツォンを深く尊敬しています。
 違いというのは、まずテンポ。『革命』は、おそらくフー・ツォンは、ニュウニュウくんの1.5倍くらいのテンポで弾いたのではないかしら。それでも、指の動きはかなり厳しく、首を振り、うなり声をあげながら情熱をこめて弾く老ピアニストの演奏を聴きながら、涙が出て止まりませんでした。ピアノを弾くって、何て大変なことなのかと思って…。ピアノに魅せられて、76歳まで生きてきたピアニストの究極の境地に触れたような気がしました。

 これで前半が終了。すでに1時間が経過していました。もう、これだけで充分なのに…、と涙を拭きながら思いました(隣に座っていた李厳歓も眼を真っ赤にしていました)。後半のプログラムも、けっこう重い。もう少し軽くすればいいのにと、老ピアニストを労るような気持ちになったわけですが、後半は、彼が最も得意とするショパン後期の作品。これが、また凄まじかった!!

 長くなったので、後半については、あらためて書きますね。
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No title
お帰りなさい~♪上海万博の映像をテレビで見ましたが、本当に凄い人!人人人ですね~。お疲れになったと思います。   レポートを読ませて頂いて、どんなに素晴らしかったんだろうと、私までグッとなりました。76歳にしか出せない音。。。 勝手な想像なんですが、自分の身近な人が、一人、二人と逝ってしまったり・・・そんな思いで弾く葬送はどんなんなんだろう・・・
 前回、牛牛君の写真を見せて頂いて、本当に細い!!ピアノから離れると、かわいい青年ですね!
キキさん♪ こんにちは
 連休はお子さんたちと楽しく過ごされたのかな?
 4月の寒さがウソのよう。季節はすっかり変わって、夏が来たみたいですね。

 『葬送行進曲』で始まったプログラム、やはり本人が晩年にさしかかっていることを意識しているのかなと思いました。この作品、ショパンが17歳のときに作った曲だけに、葬送行進曲とはいえ、若々しい息吹のようなものも感じられ、中間部の天国のような響き、素敵なんです。私も、この数年、大切な人たちをたくさん見送ったので、いろいろな想いが胸に迫り、最初からジーンときました。

 牛牛、細いですよね~。まだ、12歳(7月に13歳になります)。そう、ピアノから離れるとあどけない表情も...。月刊『ショパン』6月号(5月18日発売)の表紙になりますので、書店などで見かけたら、手に取っていたただければと思います^^

 子育て、頑張れ~ !! 外遊びの季節ですね^^


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