フリーライターの森岡葉のブログです。 大好きな音楽のこと、日々の出会い、楽しかったこと、美味しかったもののことなどを書いていきたいと思います。



   
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jasminium

Author:jasminium
1956年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。1975年~76年北京語言学院・北京大学歴史系に留学。音楽ジャーナリスト。2009年第53回ブゾーニ国際ピアノコンクールにプレス審査員として招かれたほか、ハエン国際ピアノコンクール、シドニー国際ピアノコンクール、中国国際ピアノコンクールなどにジャーナリストとして招かれている。著書:『望郷のマズルカ~激動の中国現代史を生きたピアニスト フー・ツォン』(ショパン)、『知っているようで知らないエレクトーンおもしろ雑学事典』(共著)(ヤマハミュージックメディア)、訳書:『ピアニストが語る! 現代の世界的ピアニストたちとの対話』(焦元溥著 アルファベータブックス)、『音符ではなく、音楽を! 現代の世界的ピアニストたちとの対話 第2巻』(焦元溥著 アルファベータブックス)

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12月14日ポゴレリチ東京公演

   
 12月14日、《ピアニストが語る! ~現代の世界的ピアニストたちとの対話~》(アルファベータ)の著者、焦元溥さんとポゴレリチの東京公演を聴きました。

 東京公演の前におこなわれた北京公演の「京華時報」の評を翻訳したので、掲載しておきます。




【ピアノの弦を切った大胆不敵なポゴレリチの自制心】

 前半のプログラム、リスト《ダンテを読んで~ソナタ風幻想曲~》とシューマン《幻想曲》は、聴衆にとって難解だったかもしれない。とくにリストの増4度の不協和音、調を逸脱した半音の和音の連続が、旋律を“聴き難く”させ、多くの人の眠気を誘ったのではないだろうか。

 ポゴレリチのリスト《ダンテを読んで~ソナタ風幻想曲~》は、全体として素晴らしかった。それぞれのフレーズの構想の違いをはっきりと聴き取りながら強いエネルギーを感じた。これは、鑑賞能力のある聴衆を惹きつけたと思う。若い演奏家には絶対に不可能な演奏だ。ポゴレリチのこの曲の演奏は厳粛で冷酷だった。おそらく彼にはこの曲に対する自身の哲学と宇宙観があり、奇をてらった解釈をしようとは思っていなかったはずだ。

 シューマン《幻想曲》は、きわめて遅い速度で始まり、故意に狂気じみたフレーズを封印しているように感じられた。楽譜の指示通りではなく、和声をダイレクトに衝突させ、暗い道へと突き進んでいるようだった。これは予想外の展開だった。《ダンテを読んで~ソナタ風幻想曲~》と比べて、様々な細かい部分で考えさせられることが多かった。彼はこの作品で、ロマンティシズムにあふれる恋人への想いを情熱的に描こうとはせず、鋭さを隠して、自身の心に忠実に演奏しているように感じられた。多くのフレーズで、弱拍の和声をあえて弱く弾いていたと思う。

 《ペトルーシュカ》については、語るべき言葉が見つからない。ポゴレリチの演奏は常軌を逸し、楽曲の構成感は見えず、断片的な印象を受けた。しかし、やはり素晴らしかった。この曲の最後で、妙な音が聴こえた。スタインウェイの弦が切れたのだ。聴衆はみな立ち上がって写真を撮った。まさに拍手をしようと思っていたときだったので、残念だった。それほど、私は演奏に心を奪われていたのだ。
 弦が切れた原因は、前半のプログラムから《ペトルーシュカ》に至るまで、強音を弾く部分が中音域に集中していたため、量が質を変化させたのではないかと思う。もうひとつの原因は、ポゴレリチの全身の力を使った重力奏法が、指先に集中して爆発した瞬間、ピアノの弦にそれが伝わって大きな負担をかけたのかもしれない。

 この夜、私を最も興奮させたのは4曲目のブラームス《パガニーニの主題による変奏曲》だった。すでにポゴレリチは疲れ果て、もう弾けないのではないかと思ったのだが、最初のフレーズを聴いた瞬間に衝撃を受けた。これは、私がこれまでに聴いたこの曲のライヴ演奏の中で最も優れた演奏だったとあえて言いたい。すべての変奏を、彼は基本的に軽いタッチで弾き、私は会心の笑みを浮かべた。——ポゴレチは悪い奴だ、この曲を弾いた先達たちを後悔させるだろう。彼はそれぞれの変奏の音色を巧みにコントロールし、滑らかなタッチで、ひとつひとつのフレーズ、ひとつひとつの変奏が終わらずに次につながっていくよう考え、楽曲全体に統一感を与えていた。各変奏が強い推進力によってクライマックスに導かれ、それぞれの違いの妙を見事に表現していたのだ。華やかな技巧をひけらかすことが目的ではない《パガニーニの主題による変奏曲》を、私は初めて聴いた。私が聴き取ったのは、亡くなった妻への感傷ではなかった。彼は思いのままに自身の心情をぶちまけていたような気がする。

 前半と後半を通して彼の表現を考えると、リストは死神との厳粛で冷酷な対話、シューマンは自身との戦い、後半の《ペトルーシュカ》では何かを嘲笑い、最後のブラームスでは生命の終わりに向かって突き進んでいるような感覚にとらわれた。

 CDのジャケットの若々しいポゴレリチは少しずつ歳を重ねたが、私は何年か後の彼、10年、20年後の彼がどのように進化しているかが楽しみだ。彼が再び道を踏み外す心配はないし、凡庸なピアニストよりはるかに素晴らしいはずだ。実は彼はとても保守的なのだ。私はポゴレリチの今後の録音と演奏に期待し続けるだろう。最後に一言述べるならば、自由奔放であることを愛する人は、それを自制しなければならないことを知っている。(「京華時報」馮鼎)




 私自身はポゴレリチの演奏はちょっと苦手で、数年前に聴いたときに体調が悪くなって以来敬遠していたのですが、今回はおもしろく聴きました。この評は、なかなか的を射ていると思います。
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